仙台高等裁判所 昭和26年(う)843号 判決
被害者サクの死因は絞頸による窒息死であるには相違ないけれども、それは絞頸による殺人の場合通例みられるが如く、紐を頸部に捲きつけ交叉せしめた上、紐の両端を外側に引いて、頸部をしぼる方法とは全く趣を異にし、本件においては、被害者サクの頸部にかかつていた襷用の紐を、同女の背後から強力に引きつけた為に窒息死の結果が惹起せられたのであつて、これはいささか異例に属する。(中略)以上を合わせ考えると、被告人が被害者サクの背後から同女の頸部にかかつていた紐を強く引きつけた力と、被害者サクが柿の木に両手で縋りついて、柿の木から引き離されまいとする力とが相合して作用し、被害者サクの頸部前面に強い圧迫が加わり、遂に同女が窒息死に陥つたものであつて、被告人が前述の如く紐を引きつけたのは、偏に同女の縊死するとて騒ぎ立てるのを制止しようとする以外に他意なく、因より死の結果を予期しなかつたものと認めざるを得ない。従つて又、被告人に、同女の身体に対し不法な攻撃を加うる意図のあつたものとも謂い得ない。ただ、被告人が事を行うに慮り浅く、執つた手段に適切を欠いていた憾みがあり、その点において、重大なる過失の責むべきものがあるのみである。(中略)
被告人は被害者サクの死体を積極的に他に移して放棄したのではなく、消極的に単にこれを死の結果の発生した場所に放棄したものに止まること明瞭である。(中略)さればとて、本件は被害者サクの子であり、被告人の父である富沢米蔵は屋外で被害者サクが死亡したことを知らないで、屋内において就寝しており、被害者サクの孫である被告人がこれを眼前に見て知つている場合であるから、被告人にその死体を監護すべき責務があつたものと謂わねばならぬ。従つて、その責務を果たすことなく、何の処置も施さないで、夜間、屋外にこれを放置した被告人は、死体遺棄の罪責を負うべきものとするのが至当である。